河童伝説
yo-yo

久しぶりに親父に会った
釣ったばかりの岩魚をぶらさげて
山道を下りてくる
祖母が語ってくれた河童に似ていた

親父とはあまり話をしていない
秋になって
川から山へ帰ってゆく河童を
村人はセコと呼んだ
そんな河童のことも知らなかった

親父は俺よりも1センチ背が高い
肩幅も広いし脚も長い
草の匂いと水の匂いがした
人間の臭いもきっと
親父のほうが濃いはずだ

おふくろは河童を嫌っていた
親父の髪が薄くなったのは
河童のいたずらだという
腐った鯖のはらわたで団子をこねて
親父はいそいそと夜釣りに出かける
川には尻を吸いにくる河童がいるという

雨あがりの山道には
牛が残した足跡の水たまりに
千匹もの河童の目が光っていたという
そんなものを見た村人はもういない
じつは親父もとっくに死んでいる

頭のはげたセコの話をすると
老いた雌の河童が泣いたという
親父とはもっと
だいじな話をしたかった



自由詩 河童伝説 Copyright yo-yo 2018-03-29 10:53:11
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