水のための散文詩
岡部淳太郎

流れにさからってのぼってゆく鮭の産卵のよ
うにうたうたうものは自らを束縛するすべて
のものに抗いうたうたう水の飛沫がとびちる
ようにうたのかけらはとびちりその濡れてふ
とった水を全身に浴びて鰓呼吸のように喉を
ふるわせうたの水の冷たさにからだはふるえ
いつか思い出となる日に向かってうたははき
だされ水の温度は沸点にまで至ることはなく
冷たいままで幸福であり水の色はとうめいで
はなくとうめいのような水色あるいは青その
色のなかに沈まなければうたをつむぐことは
できない足下は水に洗われ胃壁は水に洗われ
脳のなかの思考も感情も水に洗われ掌を水で
よく洗いましょう想像を水によってきよめま
しょう滝から落ちて川になるささやかな流れ
この川の上を小さな笹舟がうたをのせてすす
む頭上に目をうつすと星ぼしが水に洗われた
ために美しくひかりかがやいており水は流れ
るために流すためにいつもそこにあり天空を
かける水の奔流肉のなかをめぐる水の韻律水
はうたであり水はいのちでもあるのか私はあ
なたのためにうたうたう聴く人よあるいは聴
くことのない人よ私は水そしてまた私はうた



(二〇〇五年三月)


自由詩 水のための散文詩 Copyright 岡部淳太郎 2005-03-18 20:39:08
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