激しければ
こたきひろし

雨にも匂いがある
その匂いを嗅ぎながら駅から自宅アパートまで歩いて帰った。さしていた傘が雨に打たれ、その雨音が私の耳に伝わってなりやまなかった。
傘から落ちる雨の滴が降りやまない雨に溶け込んで路上を濡らした。寒くはないが、温かくもなかった夜に
途中で傘をたたんでコンビニエンスストアに立ち寄った。
缶ビールと弁当を買った。成人向けの本買うつもりだったが、レジに若い女の子がいたので恥ずかしくてやめた。
可愛い子だったから、エロ本の表紙を見せてあげたい悪趣味にもかられたが、躊躇した挙げ句に臆病風に吹かれた。

買い物を済ませるとコンビニエンスストアを出た。ふたたび傘を開こうとしたらいつの間にか雨がやんでいた。
アパートの近くまで歩いたら急に腹が痛くなってきた。こればかりは我慢が効かない。
部屋まで急いで歩きたいが、駆け足はヤバくなりそうだしかといってゆっくりは間に合いそうにない。
お尻に意識を集中させながら、アパートにたどり着く。
一階の自分の部屋の前まで歩くと中で電話が鳴り出した。
携帯電話がなかった頃だった。鍵を開けて一目散にトイレに駆け寄って危機を脱すると、それでも鳴り続けている電話機の受話器を取ると「あたしです」と彼女の声だった。
「さっきはご免なさい」謝る声に僕は言葉を見つけられなかった。
「いきなりの告白だったから何と答えたらいいかわからなくなって」彼女は言ってきた。
「友達でしょ私たちって、と思わずいってしまったの」
彼女は間を開けてから、ずっと友達のままではダメなのかな、と聞いていた。
僕は何も答えられなかった。
構わずに彼女は話を続けてきた。
「明日からも顔を会わせるんだから、今まで通りにして欲しいのお願いだから」
僕は沈黙を保ちながら彼女の声を聞くばかりだった。
男らしくはないけれど、今まで通りにはいくわけがないと思った。

外にはまた雨が降り出していた。


自由詩 激しければ Copyright こたきひろし 2017-12-31 14:51:21
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