哀しい宝物
ただのみきや

思い出が傷跡に勝ることはない
喜びが悲しみに勝ることもない
その逆を高らかに歌いたいのか
荒れ狂う波を逃れて舞い上がる
喜びの 幸いの 愛の翼を
だが日々萎れて往く切り花のように
全ては古びてほつれ
熱は冷め 泉は汚れ
愛は思索めいた素振りの
空箱になって 
各々幻を詰め始める
疑う権利
嘘をつく権利
八つ当たりする権利
罵倒する権利
他人に言いふらす権利
自分の方が正しいと言い張る権利
傷つける権利
やり返す権利
すべて真っ当な論法だと思い込む
始まりが終わりを清算することはない
生が死を終わらせることがないように
もう一度 もう一度と繰り返し
深く より深く 絶望の螺旋を下って往く
愛を語り 愛を信じる者
誘蛾灯で身を焼く音 
愛の歌 愛の詩人よ
理想とはこの世に今まで存在したことがなく
これからも存在しないからこそ理想なのだと
誰よりも知っている者たちが織る
日常へ投ぜられた美しい影絵たち
男も女も殺すテロリストだって
メロドラマでホロリとこないとは限らない
琴線なんてどこでも響くし
涙腺なんかいつでもひらく
愛から憎しみへはその日の内に変わる
憎しみから愛は一生でも儘ならない
胸に残る鈍い痛み
ただの燃え滓
いつまでだって泣いたり恨んだり
過去をつまみに酔っていられる
暗黒に塗り込められた自画像 ああ きっと
誰もが目を背けるたくなる そう想いながら
哀しいかな ふと 抱く夢
赤ん坊を抱くように そっと しっかり
再び幸せを 愛を 喜びを
無いものを在るもののように見つめてしまう
人の 哀しい宝物




           《悲しい宝物:2017年12月27日》









自由詩 哀しい宝物 Copyright ただのみきや 2017-12-27 20:11:06
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