a spool




澄ました水を眺めるくらいのここは小さな部屋です。
灰色の砂が時折、いたずらに跳ねる水で濃いグレイになったり・・薄いグレイになったりします。
太陽が出たりすることも月が沈んだりすることもない窓枠から時折、銀の雫が零れ落ちてきます。
ワタシは、真白なレースのワンピースを新調したばかりで、羽根の付いた万年筆と鍵の付いた日記帳を持って部屋の隅から窓枠を眺めています。
銀の雫は、たくさん落ちてくるときもあれば長い間何も音を鳴らさないときもあるのです。
その瞬間の訪れをワタシは待っていなければならないのです。
澄ました水を眺めるくらいの小さな部屋の灰色の砂が、余りにも濃く染まるときは、ワタシのワンピースは濡れてしまうのです。そんなときは、ワタシは万年筆の羽根を振ります。すると音が鳴って澄ました水の中に在る金の銀のプラチナのバチカンが集います。壁に耳と頬と手をくっつけて身体を寄せて目を瞑ります。すると音が鳴って灰色の砂は薄くなっていくのです。

溜息

澄ました水を眺めるくらいのここは小さな部屋です。
金の銀のプラチナのバチカンをヒトツづつ日記に描きとめていきます。
いたずらに跳ねる水は諦めたように窓枠を静かに眺めています。
音が鳴って銀色の雫が零れ落ちてきます。
ワタシは、ココナッツの木で出来たスプーンを新調したばかりで、うまく使いこなせません。持ち手の先に付けることが出来た銀の鈴がいぶかしげに小首を傾げます。
びしょ濡れになった真白なレースのワンピースの裾を絞りながら銀の雫を掬います。

漏息

澄ました水を眺めるくらいのここは小さな部屋です。
ひと夜、銀の雫はワタシに抱かれて眠ります。
太陽が出たりすることも月が沈んだりすることもない窓枠から時折零れ落ちてくる銀の雫は、静かに音もなく眠りにつきます。
ワタシは、銀の雫を抱いて、唯、そぉっと撫でてやります。
唯、そぉっと息を潜めて銀の雫を撫でてやります。
音もなく、ひと夜更けるその間に。
真白なレースとワタシの胸の間に。





自由詩 a spool Copyright  2005-03-16 13:17:32
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