うさぎと折鶴
あおい満月
おかあさん、と呼んでも消え入りそうな
真っ暗な林のなかにいる。お母さん、あ
なたが撫でた頬のぬくもりが、白い月の
輪郭をなぞっていく。あなたのもとへ帰
りたいと願っても、月の光を頼っても、
あなたのもとへは帰れない。うつむく私
の目の前を金色の光が横切っていく。何
だろうか。それは、一羽の、身体が金色
をした鳥だった。鳥は心臓のかたちを描
くように私の周りをとびまわり、私の肩
に止まって囁きかける。(お母さんのもと
に帰りたいの?)私が頷くと、鳥は大きな
七色の孔雀になって、(私の背中にお乗り
なさい、お母さんのところまで連れていっ
てあげましょう)孔雀の背中から見渡す夜
の世界は、月の光に身籠られた小さな卵
が無数に光輝いていた。そのひとつのな
かに、お母さんがいる。そのとき、見覚
えのある家の明かりが見えた。(あそこで
すね)孔雀のことばに、ありがとうと言っ
て、私は家の扉を開けた。家のなかは明
るかったけれど、どことなく寂しかった。
おかあさん、呼ぶ声に呼応して、テーブ
ルに突っ伏して眠っている彼女の寝息の
手のひらには、私が幼い頃大事にしてい
た、小さなうさぎのぬいぐるみが握られ
ていた。私は金色の折り紙で鶴を折って、
その横にそっと置いた。