自分ばかり
やまうちあつし

真夜中に目を覚ますと
キッチンのテーブルに誰か座っている
見れば自分ではないか
寝ないのか、と問うと、寝るのか、と答える
最近どう、と問うと、知ってるくせに、と答える
仕方がないので向かい側に座り
近所の噂や仕事の話
晩のニュースの話題から最近読んだ神話のことまで
話がどうもかみあわないや
昔のことを話すと顔がこそばゆい
未来のことを話すと体がこわばる
これが自分なのだからよわってしまう
これが大人なのだからまいってしまう
二人で一杯のホットミルクを
真っ白い液体が真夜中に落ちてゆく
寝ないのか、と問われるので、寝るのか、と応じる
布団に戻り添い寝する
ぽん、ぽん、と軽くあやしているうち眠ってしまう
目覚めると朝が来ていた
キッチンのテーブルには
ミルクを飲んだコーヒーカップ
目ざとく見つけた娘らに
自分ばかり、と笑われてしまった


自由詩 自分ばかり Copyright やまうちあつし 2017-12-16 07:27:39
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