ふるる

森はたえず拡がり続けているのでした 私と兄は手に手を取ってその森を歩くの
でしたが出口を探すことはとうに諦めているのでした(二人の目は 暗い)鳥が
啼くと言ってはそちらへ 風が花の香りをと言ってはそちらへ 二人はほんとう
に川を流れるさくらんぼのように くるくると狂ってしまったように(少し楽し
い) あちらこちらをさまようのでした(足が鉛のよう) 兄はこんな緑したた
る美しい森のためなら死んでもよい(本気だった) などと言うので私は泣きま
した(ごめんよ) だって兄さんがいなくなってしまったら






いなくなってしまった兄さんの髪だけを手に私はたえず歩き続けているのでした
だってそれしか兄さんを偲ぶやり方がわからない 父は母はそういったことは何
も教えてはくれずに私たちを置き去りにしたのでした こんなに深く暗い森に兄
さんが私を置き去りにしたとは思わない けれども枯葉踏む火色の夕暮れ 霜の
ささくれる水銀の深夜一瞬兄さんを叫びます どこかで私を待っていてくれるに
違いありません どこまでも広く蒼い森 私が一人で歩くことが肝要なのだとい
つも言っていましたね

(そうだね)


自由詩Copyright ふるる 2017-12-07 00:05:19縦
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