あたまを石畳にすりつけて感謝するしかなかったんだ
秋葉竹

あの日、
蛇のように
心も体も冷え切ったあたしに、
肌をあたためて
あげるから信じてねって
姫さまがおっしゃってくれるから
「ありがとうございます、救われます」
あたまを石畳にすりつけて感謝するしかなかった。
ただ、
今でもあの時のこと思い出すと、
泣いてしまいそうで困るんだ。

生きていくと
色んなことがあるよね。

昨夜も凍えた人が
「幸せになるには、なにを
どうすればいいのですか?」
姫さまに尋ねるんだ。

睫毛を伏せて
すこし震えていた姫さまは
「それがわからないのは、
つらいことですね。
けれど、あなたの絶望は
わたくしが聞かせて頂きます。
聞かせて頂くだけなので、
あまり意味はなく、
それでは、生きいく上で
なにが正しいのかの答えにも
迷ってしまいますよ、ね?
これからいっしょに
考えていきません?」

それがきこえたのか、
凍えた人は
依存心は捨てますと反省しながら、
「…………はい、お願いいたします」
ちいさな声でそう告げた。

しばらくすると
けもののような、
かすれた嗚咽が聞こえた。

姫さまは
なにも聞こえないのか、
「今夜はもう眠りましょうか、
ねえ、眠ってしまいましょう?」
そして、優しくほほえみかけてくれるのだ。
この冷たい、暗い世界に
あかりを灯すように。

「わたくしも、もう眠りますね」

いうとどうしてこんなに
素早く眠れるのか
不思議なんだけど、
今夜もまるでねむり姫のように
もはや近寄りがたい
白い陶器のような綺麗な寝顔で眠る。
でも、寝息だけは
聞いているだけで
幸せになれるくらいの可愛さで、
この
あたしなんかが不遜にも
寝言でいいから
名前を呼んで頂けないものかと
焼けつくほどの願望を
もってしまったりする、
恥ずかしながら。

さとられては、
ここに居させてもらえなくなる気がして
つとめて冷静に、就寝の挨拶を行なう。

「姫さまのみこころのままに、
こんやは、おやすみなさいませ」


自由詩 あたまを石畳にすりつけて感謝するしかなかったんだ Copyright 秋葉竹 2017-11-26 20:36:55
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