リアリティのある漫画
加藤泰清

リアリティのある漫画
例えば「最終兵器彼女」や「ヒカルの碁」などは設定や画がかなりリアリティがあると思うが
リアリティがある漫画にとって一番重要なものが欠けていると思う
それは「缶ジュースの飲む部分の縁の下の辺りにある凹んだ部分」である
これを描いてない漫画が非常に多い
もしかしたら誰も描いた事がないかもしれない
「缶ジュースの飲む部分の縁の下の辺りにある凹んだ部分」とは一体どういうことなのか
つまり缶ジュースがガコンッと勢いよく落ちてきた時に
缶の縁の下の辺り つまりカーブした部分の頂点より少し下にズレた部分が凹んだ場所
それが「缶ジュースの飲む部分の縁の下の辺りにある凹んだ部分」である
注意して缶をみてみれば上記に示した場所に凹んだ部分があるはずだ
そこを指先で撫でるとなんだか変な感覚になるはずだ
俺の場合はジュースを買う時ほとんど凹んでいる
都会がどんな自販機かは知らない
俺は岩手県民で田舎育ちですから
だがいろんな漫画のガコンッシーンをみる限りでは
都会も田舎も自販機の作りは同じだと思うので問題はないと思う
ちなみに缶コーヒーの場合ではこれは起こりえない
缶ジュースと缶コーヒーは違う
アルミとスチール
そして丸みを帯びた形と四角い形
これが凹みに関係している
ちなみにあったか〜いとつめた〜いは関係してないと思う
缶ジュースの缶の部分はアルミ素材で
缶コーヒーはスチール
硬さが極端に違う
アルミでは落ちてきた時のスピード+ジュースの重みの衝撃に耐えられずに
飲む部分の縁の下の辺りは「へこんっ」と凹んでしまう
だがスチールはその衝撃にも耐えられる
なにより落ちてきた時接触する部分が「縁そのもの」なのだ
縁そのものは硬い
せいぜいちょっとキズがつくくらいだろう
それに対して飲む部分の縁の下の辺りは微妙に軟らかいらしい
カーブした部分の頂点は縁に勝るとも劣らず硬いのだが
カーブした部分の頂点より少し下にズレた部分は微妙に軟らかいらしい
凹んだ部分に気づいてしまうとちょっと鬱になる
「他の場所も凹ましてやる!」と思いながら飲む部分の縁の下の辺りを力一杯押すのだが
なかなか硬いので疲れてしまい余計に鬱になるという罠が張られている

漫画シーンでは自販機から缶ジュースが出てくるシーンが結構あると思う
その際に出てきた缶ジュースの多くは形が綺麗だ
綺麗だ
おかしいのだ
なぜ登場人物が持ってる缶ジュースの飲む部分の縁の下の辺りが凹んでないのだ
大体こういうシーンはひとつの漫画に1回〜3回位の割合であると思う
コマごとに分ければもっと多い数になるだろう
毎回凹んでいたらそれはおかしいが
せめてひとつの漫画で1シーンぐらい いやひとコマぐらいは凹んだ部分が出てきて欲しい
アングルは大体コマごとに違うんだから微かにも見られるはずなのだ
主人公が飲む部分の縁の下の辺りが凹みを触って鬱になるという演出はいらないから
せめて飲む部分の縁の下の辺りの凹みを描いて欲しい
それを描いてこそ最もリアリティ溢れる漫画だと俺は思う

「ガコンッ」
「ん?そこにいるのは・・・おお、中濱じゃねえか」
「あっ、梶本先輩おつかれッス」
「・・・コーヒーか
 いいなあソレ ちょっとおごれや」
「えーマジっすか?俺全財産265円で今使っちゃったからのこ――」
「あ?」
「・・・わかりました コーヒーでいいスよね」
「あーなんでもいいぞ」
「ガコンッ
 ・・・・・・はいどうぞ」
「サンキュ・・・ってああ!
 これブラックじゃねえか」
「あ ダメでしたかブラック」
「俺缶コーヒーはデミタスって決めてんのよ」
「じゃあ初めっから言ってくれりゃ――」
「あ?その辺は空気読めや」
「・・・スミマセン」
コレは缶コーヒーだから凹みシーンがないのは仕方ない
この台詞変えてみよう
「ガコンッ」
「ん?そこにいるのは・・・おお、中濱じゃねえか」
「あっ、梶本先輩おつかれッス」
「・・・ポカリか
 いいなあソレ ちょっとおごれや」
「えーマジっすか?俺全財産265円で今使っちゃったからのこ――」
「あ?」
「・・・わかりました ポカリでいいスよね」
「あーなんでもいいぞ」
「ガコンッ
 ・・・・・・はいどうぞ」
「サンキュ・・・ってああ!
 これステビアじゃねえか」
「あ ダメでしたかステビア」
「俺ポカリは粉タイプって決めてんのよ」
「そんなの自販にないッスよ――」
「あ?その辺は空気読めや」
「・・・スミマセン」
これなら中濱君が飲んでるポカリの飲む部分の縁の下の辺りが凹んでいるはずだ
ところでヤクルトが缶になっていたらどうだろう
「ガコンッ」
「ん?そこにいるのは・・・おお、中濱じゃねえか」
「あっ、梶本先輩おつかれッス」
「・・・ジュースか
 いいなあソレ ちょっとおごれや」
「えーマジっすか?俺全財産265円で今使っちゃったからのこ――」
「あ?」
「・・・わかりました 適当でいいスよね」
「あーなんでもいいぞ」
「ガコンッ
 ・・・・・・はいどうぞ」
「サンキュ・・・ってああ!
 なんだこれ?『缶ヤクルト』!?」
「あ ダメでしたか缶ヤクルト」
「ヤクルトはプラスチック容器でチュ―チュ―飲みが常識だろ」
「・・・スミマセン」
腹がイカレそうだ

ちなみに「飲む部分の縁の下の辺りの凹みなんてない」というかたは
今すぐジュースを買いにサンダルを履いてマンションの玄関から10m先の最寄自販機へ急ごう
そしてアルミ缶ジュースを買って手にとってみよう
飲む部分の縁の下の辺りに凹みがあるはずだ
ないとしたらもっとジュースを買おう
もっと買おう
もっともっと買おう
万札使い切ろう
そして出てきたジュースおおよそ83個の飲む部分の縁の下の辺りを調べよう
それでも凹みがないならもう自販機の仕様ということだ
あきらめよう
別に見つけたからといって良いことは特にない
ただただ触ってみて変な感覚になって鬱になるだけだから


散文(批評随筆小説等) リアリティのある漫画 Copyright 加藤泰清 2005-03-15 20:45:02
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