花火
宮木理人

スーパーマーケットの外で缶ビール片手に持ちながら
青いポロシャツのおじさんが今夜も小一時間
おじさんにしか見えないというブラックホールの話をしている
ぼくはその姿を一番おもしろい角度から眺める
おじさんの顔を、ぼくがおもしろがって見ているということをおじさんに悟られてはいけない
なにしろおじさんは真剣だから

夏が終わって秋の風が吹きはじめ
辺りには涼しい風が吹いている
その涼しさは何度も繰り返してきたはずなのに
全てを忘れたかのように新鮮だ


ぼくの目の前には、バレーボールほどの大きさの、ぬるぬるとしたイカに似た生き物が宙に浮いていて、その両端に生えたヒレのようにうねる部分をしっかりと掴みながら、真っ赤な空間を移動している。まるで傷口に向かってまっすぐに出動する血小板のように、使命感を担ったスピードを緩やかに感じながら、前進していく。どこに行くのか分からないが、なんだか心強い。


あの夜のおじさんは、缶ビールを飲み終わるとそれを足でつぶしながら、隣にしゃがむぼくに対してなにやら壮大な人類の歴史を語りだした。ぼくは一応聞く姿勢でおじさんのほうに体を向けたけど、意識は上の空で、実際に斜め上のほうの空に気を取られていた。そこには遠くの町であがっている花火が音もなく点滅していてた。
おじさんはそれに気づかずに、ぼくのほうを見ながらずっと語り続けていた。




自由詩 花火 Copyright 宮木理人 2017-11-09 03:02:59
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