流時紋
ただのみきや

水面から突き出し露わにされた
見えざる岩の 固く 鋭い突端
流れを切り裂いて
空間を満たしとどまることのない
               行進を
                ただ白く 
             泡立たせ
くんずほぐれつ 水は するようで
喜怒哀楽
眼差しの照り返しを乗せて ただ
        彼方へと流れ去る
己の静謐を寄り添わせ
如何様にも変化しながら
       なにも変わらないもの

         水も光も風も
無表情に干渉し合う
感じることもなく
見つめることもない
それらの指紋はみな
    観察者が記したもの
絶えず在るということは
絶えず無いということと
           相殺され
         円環される
       像の瞬きで
      誰もが朧に掴んでは
空虚な世界に化粧をする

わたしは夜の髪に櫛を入れる
無駄なことだとわかっていても
         誰のためでもないただ
一人歩きする欲求に首輪をつけず
一枚の写真のように翌朝を
   燃やすことを夢見ている
          目覚めたまま
灰に埋もれている

うす皮一枚やぶって現れる意思
――自分でも蝕知できない――
見えざる巨大な違和 その突端は
 立ち向かう 志であったろうか
ふるえる傷口から生えた肉腫であったか
辺りを騒がせ流れを歪め
        ただ固く 硬く尖らせて 
             尚もやわらかな
            血肉でしかない
ことを
卑怯者呼ばわりするかのように
   自虐の汚れた包帯でぐるぐる巻きにして

時が解決する癒しとは
        摩耗である
血肉を削がれ もの言わぬ骨となり
冷たい時の流れに浸されて違和もなく
もはやなにも乱さない
なめらかな河底の石となって黙すること

いま癒されることもなく苦しげに
水面からやっと唇を突き出して
――白く 泡立つ時間
        つかまえた手から
      また逃れ去る
一瞬も止まることを知らない舞踏が
              言葉に 
     影のように寄り添って

癒されないことは
時を殺し続けること
河底のなめらかな石を拾い上げ
――もの言わぬものを
   もの言うものに投げつければ
互いに痛みながら
    すこしだけ癒され
     すこしだけ傷を負う
  言葉を重ねることで
観察者の顔も摩耗して往く
           時のひと踊り
       むすんではほどけ




              《流時紋:2017年11月4日》

 








自由詩 流時紋 Copyright ただのみきや 2017-11-04 16:37:52
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