サラマンダー
ただのみきや

煽り煽られ踊る火に
鳴りやまぬ枯木林の
奥の奥
紅蓮の幕は重なり揺れて
熾のしとねはとろけてかたい
静かに 微かに 
波打つ青い心臓のよう
円くなって まどろむ
火蜥蜴は涼やかに
ときおり目――藍で引いた女のような
片目をあけると
      星もない夜を映した井戸


黄金こがねの火の粉が天を焦がす
あんぐりと見上げてはハッとして
われ先にと水をかぶる人々
「風よ吹くな
 こっちへ吹くな
夜明け前の濃い闇に身を寄せ合い
炙られて
互いの体臭に悪酔いしていた
「火蜥蜴さえいなければ我々は――
「火蜥蜴さえいなければ世界は――


火蜥蜴は
ただのトカゲ
逃げ出すことをやめただけ
愚か者が放った火から愚か者と一緒に
内に湛えた静かな夜を
存分に
ただ
存分に堪能したかった
灰になるまでうっとりと


煽り煽られ恐れて怒り
騒ぎ治まらぬ群衆が
正義の石を拾っては
標的の悪を探している
極めて原始的なミサイルの
革新的な騒音と火花で
なにからなにまでひっくり返す
甘美な集団幻想の
正義に酔った素面しらふには
悪魔のように根源的で
憎むべき原始心像だった
あの潤んだ瞳は
 火を
  破滅を
 孤独を
まるで愛しているかのように
見えたことだろう
夜の水と堕落を湛えた
柔らかな青い壜に
ふと斜めに射した
   あの最後の一瞥は




          《サラマンダー:2017年9月27日》









自由詩 サラマンダー Copyright ただのみきや 2017-09-27 21:48:24
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