緑の折り
水菜

緑の折を広げた
薄黄緑色のそれは
淡い光沢を放っている
元は、和菓子の菓子折りに使われていた淡い黄緑色の包装紙だったはずだ
丹念にしわを伸ばしていく
子供が折ったようなそのあとは
子供が折ったのではない 折り鶴のあと

すっと音が無い部屋のように思う
周りを見渡さなくとも
ハウスに閉じ込められたかのような
蒸し蒸しした緑の匂い
部屋中に敷き詰められた観葉植物から
むせかえるような土の匂いが立ち込めて
周りを見渡さなくとも自らの存在を主張している

彼女、と
仮にそういうつもりだ
私が子供のころ遊んだ河原に生えていた山藤をこちらに移植したのは彼女だった
彼女は寂しかったのだと思う
個人所有の土地に流れる川に遊びに来るような子供など私以外いなかった

彼女は、この誰からも見放されたような山の中に
お地蔵様のお世話をしながら植物を育てながら
静かに静かに潜んだように暮らしていた

彼女からは、定期的に手紙が届いた
それはそれは達筆な柔らかな筆遣いで筆まめな彼女は
私に手紙を送る度に何かしら押し花と香がしみ込んだ折り鶴をあわせて

彼女を発見したのは私だったが
私はその光景を綺麗だと感じてしまった

彼女に這うように山藤の蔦が
彼女を守るように巻き付いていて
彼女は緑に同化しているように見えた

彼女が倒れた場所には
柔らかな光が当たっていて

ぼんやり彼女を浮き上がらせているように見えた
垂れ下がる山藤の淡い藤色が
ひかりにあたってきらきらとしていた

私が彼女を久しぶりに訪ねたのは
彼女が最後に送った手紙があったからだった

彼女は相変わらずの達筆な筆運びで

一緒に添えていたのは薄黄緑色の折り鶴だった

そこに一言

いつかまた遊びに来なさいね、春には是非とも一緒に花を植えましょうと、書かれていた

たおやかな藤の花の花言葉は

やさしさ 歓迎 決して離れない 恋に酔う

彼女、彼らの主人が消えたこの部屋のなかで
わたしは、ぼんやりと香がしみ込んだ折り鶴のあとを伸ばす

最後まで、あなたがわたしに伝えられなかった想いがしみ込まれたそれを
とてもさびしくおもいながら



自由詩 緑の折り Copyright 水菜 2017-09-17 21:25:48
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