『かのん、の、「入院」』
川村 透
かのん、は
「入院」がだいきらい
だから高熱で白目をむいて
こんなにも
「あつくてさむいよお」ってふるえているのに
「いきたくないの」って
ベッドから起き上がっておかあさんにしがみつく
かのん、は「さびしいよお」って泣く
かのん、は「さびしいよお」って泣く
「おかあさんがここにいるのに、どうしてそんなにさびしいのっ!」
おかあさんも涙目になって、
かのん、をぎゅっと抱きしめてから、水枕の氷を取りに階段を下りてゆく
「おとうさんが抱っこしてあげよう」
僕はクマのプーさんを抱きかかえるみたいに
かのん、をささえている
かのん、は「さびしいよお」って泣く
かのん、は「さびしいよお」って泣く
かのん、の「さびしい」は、どこにいるの?
僕は、かのん、の髪をなでる
僕は、かのん、のおでこにふれる
かのん、の「さびしい」は、どこにいるの?
僕は目をつむり、かのん、のゼーゼ−、に、ミミヲスマス。
僕は目をつむり、かのん、の肩から腕、指から爪、てのひらのじとじとの中をさがす
僕は目をつむり、かのん、の胸から腹、腿から指、土踏まずのじとじとの中をさがす
僕は目をあけて、かのん、のおでこにおでこをあて、ほおずりをして瞳の中をさがす
僕は目をあけて、かのん、のからだを人形のようにゆすぶって、
ゆすぶって。
かのん、の「さびしい」が、みつからない
かのん、の「さびしい」は、どこにいるの?
ぼくはどうしたらいい?
かのん、の「さびしい」は、どこにいるの?
かのん、の「さびしい」が、ドウシテモ、みつからないんだ、おかあさんおかあさん
ベソをかきながら、ミミヲスマス、ト
アオイ、カゼ、ガ、シタタッテ、シミテキタ
かのん、の「さびしい」が、ココにも、いる
かのん、の「さびしい」が、ココにいる
かのん、の「さびしい」は、ボクの中にいる、
ミ・ツ・ケ・タ。
まってて!
もうすこしでぼくのゆびがとどくよ
「!」
「暗すぎる、くらすぎる、クラスギル!」
かのん、の呪文がくらやみに満ちる、と
パチン、って音がして、部屋に蛍光灯の朝が来た
「おかあさんよ」って
あなたが、かのん、の、ほほをだきしめてくれたよ
僕たちは、かのん、を、そっと毛布で守りながら
いつもより、もっと、もっとおごそかに
入院の支度を始めた。
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かのん