朝の日記 2017夏
たま

八月に入って
夏の子が孵化した
春の子はカラスにやられて
しばらく空き家になっていたキジバトの巣
避暑に出かけたカラスがいない間に
夏の子はすくすくと育った
キジバトの巣は我が家のケヤキの枝にある
樹齢三十年余りのケヤキの
苗木を植え付けたわたしは六十五になって
この夏ようやく長い夏休みを手にした
カラスはもういない
思いっきり羽をのばしてどこへでも行ける
そう思ったのに
朝夕にベランダに立って夏の子の子守をしている
ひと月あれば夏の子は巣立つ
このわたしもぼちぼち巣立つ歳になった
親に追われ
自我に追われ
北の亡者のことばに追われしながら生きてきた
あとはもう追いかけるばかりの余白が残された
とりあえず家事を覚えなければいけない
雨戸の開け閉めと布団干し
洗濯物のあと片付けと風呂洗い
炊事洗濯はちょっと無理かも……まあいいか
九月に入って夏の子はふいにいなくなった
あくる朝の枝には子をさがす親がいた
元気に飛び立つそのすがたを見送ったわけでないけれど
夏の子は風に追われ
自我に追われ
晩夏のことばに追われて一気に巣立ったはずだ
もう二度と出会えないだろうし
紅い瞳になったら見分けることもできないだろうし
でも夏の子は覚えているかもしれない
生まれたままのわたしの瞳の色を
残された余白にちいさく誠実と書く
ただそれだけを追いかけて
今日を生きるひとでありたい
カラスは、もういない












自由詩 朝の日記 2017夏 Copyright たま 2017-09-14 15:04:04
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