秋窓
そらの珊瑚
月までは案外近い
いつか行き来できる日もくるかも、と
あなたはいうけれど
それが明日ではないことくらい
知っている
人は間に合わない時間が在ることを知っていて
間に合う時間だけを生きてゆく乗り物
虫の音が聞こえる
それも命を継いできた乗り物
わたしたちは秋に間に合い
半袖では少し肌寒い朝に
先に駅を降りてしまった人のことを想う
故郷の駅にはエスカレーターが備えられたけれど
足の悪い父がそこを利用することはもうないだろう
父の時間の中では今でも駅は
不便な階段で
改札口で切符を切る駅員がいて
ラッシュアワーには鋏で
途切れることのない
スタッカートなリズムを刻み
そこから仕事へ行き
仕事から帰ってくる場所
本屋だった店のシャッターには
白い埃が積もり続けている
人差し指でぬぐうと
そこだけ小さな窓になり
のぞいてみれば
エスカレーターが伸びてゆく
月へ行くための