広場で手紙を
オイタル

広場で
手紙を書いていた
小さく
手紙を書いていた
ベガの赤い電熱球の震える隅で
コバヤシくんが大きく伸びをして
顔を寄せて
それはラブレターかな
と言った
ペン先の硬い文字で 少し迷って
それから ようこそとぼくは書いた

 ようこそ 紫陽花
 若くて 黒い眼鏡をかけた
 尖った鼻の 紫陽花
 薄い雨に染まった 紫陽花

硬い木のテーブルを
コバヤシくんの指先がカタカタなぞった
友達は 楽しかったって言ってた
友達かどうかは
ちょっと迷うとこ だけど

書いては消した うん
なんども
それはなんども

 紫陽花のやつ
 よくも おれを
 笑いやがった どでかい声で
 格別に濃い オレンジの声で

広場は跳ね上がるオレンジの粒で
冷たい粒でいっぱいだった
格別に濃いオレンジの
それから オレンジの夢
星の残り
不足する時間

僕の手紙は
すこぶる澄んだ文字でいっぱいだった
あと 少しの
滲んだ文字と

 紫陽花は雨の後だから
 希望には なれないよ
 いわばそれは 真新しい手紙
 何もかも終わったあとに届くラブレター
 ようこそ 紫陽花

僕は 手紙を書いていた
ほんとに 小さく 書いていた
間に合わないかもしれない 硬いペン先の文字で
コバヤシくんを 隣に置いて
胸を
少し張って


自由詩 広場で手紙を Copyright オイタル 2017-08-26 19:15:00
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