蜥蜴の子
佐々宝砂

黒い円盤に封じこめられた過去の叫び
くるくるまわる盲目の蜥蜴
蜥蜴の王は
わたしを
見ない

幾千の音符が
それぞれは鎌のかたちをして
わたしの胴と四肢とを裂き
全体は蛇のかたちにならび
わたしの耳に毒液を流しこむ
だがわたしは生かされている

窓を開ければ
底のない夏の空に
あっけらかんと太陽が浮かんでいる
わたしは蜥蜴の子だから
太陽を見つめることができる
わたしは泣かないし
福音も救済も破滅も欲しくない
蜥蜴の王よ
どうかわたしに
やさしいひとびとから逃げ続ける力を
哄笑と叫びと囁きを
言葉を

レコードが回転をとめる
蜥蜴の王は眠る
その冷ややかな顔

太陽が沈み
蜥蜴の子は
秘密のアルファベットを探して
辞書を繰る
辞書を繰る
辞書を繰る





18歳時のおーむかしさくひん。
蜥蜴の王とはもちろんあのひと。


自由詩 蜥蜴の子 Copyright 佐々宝砂 2005-03-12 15:44:27
notebook Home 戻る