彼岸花
あおい満月

花びらを握りしめた
手のひらをそっとほどく
花びらは蝶になり
夜明け前の赤い空へむかって
円を描きながら飛んでいく


指先から聴こえる
川の鼓動をたよりに
目を覚ました足で
鼓動が聴こえる方へと歩いていく
暗い冷たい壁を伝いながら歩く


彼方に金色の光がもれている
誰かの声も聴こえてくる
楽しそうな声だ
歩いても歩いても彼方は遠い
何度も転びそうになりながら辿りついた


その場所には死んだはずの祖父と祖母がいた
笑っていたのは幼い日の母と叔父だった
金色の世界には滝が流れていて
水の色も金色だった
金色の魚たちが話しかける


(ここは死後と現世の仲介の場所なのさ)
魚たちが笑う
私はどうしてこんな場所に来てしまったのだろうか
(皆、おまえに会いたがっていたのさ)
私はもう長いことお墓参りに行っていないことを思い出した


(おまえの手の中のその花を手向けよ)
魚たちに言われるがまま私は祈りながら
花を足元に手向ける
真っ赤な彼岸花だ


すると、
一瞬強い光の後に
視界は一面真っ赤な彼岸花で埋め尽くされた
あたたかな風が吹き抜ける
祖父母が手を振っていた


蝉しぐれが
時間の輪郭をなぞっている
晴れた空に降る雨と
厚い雲に架かる虹に
遠ざかる夏を受け入れるトンネルを見た



自由詩 彼岸花 Copyright あおい満月 2017-08-17 15:18:38
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