ある感覚の喪失
ただのみきや

  乱雑に積まれた古本の階段をうっかりと
 踏み外して雪崩る時間
目眩き
感光した 
 若き夏の日の窓辺
   白く濁る波の音 
         瞑り流されて
     大好きだった 
 身勝手すぎる
     想いをふつふつと使い果たし
   黙すしかなかった
      甘すぎるソーダ水の青さ
     透かしてなにが見えたのか
    セーターを着た後ろ姿
     枯葉とブロンズ像の道
         塗り変えられた季節の   
            絵具が溶けて混じり合う
   ゼロと無限の間
架からない橋の袂で眼球を洗った
        紙魚の群れが遡上して這い上がり
     穴だらけにされると
    脳はバサバサ抜け落ちて
 頁も解らない紙切れが部屋を埋め尽くした
   言い表せない感情を人質に身代金が要求される
「目には目を
 「命には命を
     種をこぼして項垂れる
   向日葵のように
      やがて来る夜へと置き去りにされながら
    燃えさしの
      黒く細い影を引きずって
        もはや自分ではないものの呟きに疲れ果て
 「葉には葉を
「死には死を
     首は捻じれて過去を向き 
      手足は未来を闇雲に探る
       指し示す北を見失った磁石のように
        回転しながら
         内側へと収縮する螺旋の軟体
          首をはねられた
           鶏の歩行
   わたしの中の誰かが言う
「そう太陽の方だ
 「イカロスへ落下したのは
       音も意も解らない
         異国の歌にあやされながら
     窓辺の抜け殻を揺らしている       
          風
         風 風 
          風
         弾けて
     日差しの境界を犯しながら
       ひとり幾重にも
        死んで往く         
          自
          在
          に
                    
 
        
         

             《ある感覚の喪失:2017年8月16日》










自由詩 ある感覚の喪失 Copyright ただのみきや 2017-08-16 12:24:14
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