アゲハチョウの航路
霜天

握っていた手のひらを開くと零れていくものがあったので
僕はどうやら何かを、どこかに忘れてしまっているらしい
記憶をひも状にして木の枝に引っ掛けて、登る
どうしてもたどり着けない


アゲハチョウの飛翔
僕らは空から切り取られて
どうしようもなく自由だ
一人という単位で
追い掛けてみたくなる

ゆらゆらとアゲハの航路は水平線を、止まることなく
休むときはその両手を、どこに休めるのかも忘れて
切り離されて、水分を含んだ、僕らのその、周りを
忘れることもなく、とどまることもなく、さよならに似た

ゆらゆらと
ゆらゆらと
ゆらゆらと


僕らはどうしようもなく、自由で

ロケット
のような木が僕らの記憶をぶら下げたまま
爆音で
空に消えていく
僕らはまだどこかの途中で
地図記号の意味を思い出そうとしている


忘れましょう、忘れない
ここはまだ僕らの範囲で
休めないアゲハ、目の前を捕まえる
手のひらを、するり、零れて
まだまだ、たどり着けない


さよならとアゲハチョウ水平線を越えて行く
その航路明日の辺りたどり着けば、昨夜の月の色
思い出せば休むことも出来るだろう

僕らもたどり着けるはず、の


自由詩 アゲハチョウの航路 Copyright 霜天 2005-03-12 01:59:14
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