はじまりに耳をすます
望月 ゆき

ああ、またここから、始まる

無意識にながれる所作に
ときどき
生まれる、感覚
蛇口をいきおいよくひねり
じょうろへと水を注ぐ
そんな、とき

朝が、
おとといよりも
昨日よりも 
数ミリはやくやってきて
すこしだけ、とまどっていた

外はもう
わたしが知らない、春の体温だった

始まってゆくことは
終わってゆくことだと
季節がかわるたびに、知る
そうしてそれが
生きているもの、
生きてゆくもの、それらの向かうべき
朝なのだ、と

たったのひとことも告げないまま
消えてしまった、と
泣かないで
どんなときも合図は、あった
たしかに
春は、みじかく鳴いたのだから

また、始まるのだ
ここから
この、朝から

たちのぼる湯気のまえで
あたらしい味噌のふたを
ピリピリとあけながら、わたしは
つんと耳をすます



自由詩 はじまりに耳をすます Copyright 望月 ゆき 2005-03-12 01:41:39
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