夏のあとさき
そらの珊瑚

 盂蘭盆会

暮れてゆきそうでゆかない
夏の空に
うすももいろに
染まった雲がうかぶ
世界はこんなにも美しかったのですね
なんども見ているはずの景色なのに
まるで初めて見たように思うのはなぜだろう
死んでしまった人と知っているはずなのに
まだ死んではいない気がするのはなぜだろう

満ち欠けを繰り返す月は
相変わらずの孤独を誇る



 原爆忌

見なければよかった

世界は残酷でどうしようもなく理不尽だ

見たことで
刻まれてしまった
柔らかな心の奥底に
鋭い刃で掘ったように

ないことになど
出来ないのだ

緑燃える広島平和記念公園の蝉たちの
鳴く声のけたたましさ



 真夏に想う氷

ひとかけの氷が
ほどけて水にかえってゆく
人生において一瞬の点のような時間
何の役にも立たないひとかけらの時間
犬は氷が怖いらしく
ただ遠巻きに見ている
臆病だね、
蝉の抜け殻は目ざとく見つけて食べるくせに

北極の氷がみんな溶けて海にかえっていったら
北極熊はどうしたらいいのだろう
ただの熊に戻れるのだろうか
それはちょっと困るわ
アザラシと間違えられて
あたしは喰われてしまうじゃないの、と
いいたげな犬は
なるほど少しばかりアザラシに似ている



 満月の夜

一匹狼は遠吠えをしないなんて嘘だ
誰とも分かちあえなくても
さみしさを
月にだけ打ち明ける夜がある



自由詩 夏のあとさき Copyright そらの珊瑚 2017-08-06 11:16:33
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