きれいなもの
梓ゆい

取れたてのトマトを氷水で洗い
大きな口でかぶりつく。

暑くなり始めた水場の前で麦わら帽子を被り
冷たい水で顔と手を洗う父と私は
虫や暑さと格闘しつつ
畑仕事に精を出す。

太いきゅうりをもいで
掌からはみ出る位のナスをもいで
落とさぬよう竹網の籠へ次々と。

葉っぱと野菜で溢れかえる視界の中
不意に現れたオニヤンマは父の麦わら帽子を横切り
大きな目を向けて爪を伸ばす
子猫の頭上をくるりと旋回をして
高く遠い空の上の飛行機にも似た姿のまま
田んぼの水路を目指して逃げてゆく。

太陽の光を吸い込むオニヤンマの羽
虹色に反射をする光景が
母の大事なダイヤモンドよりも美しい。



自由詩 きれいなもの Copyright 梓ゆい 2017-08-01 15:08:38
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