青信号に変わるまでの時間に
そらの珊瑚

ひらひらと横切ってゆく蝶々
つかまえようとして
伸ばされた小さな手
初めての夏という季節の光
街路樹の葉が落とす濃い影
見えない風の気配
蝉のなきごえ

お母さんの胸に抱かれた
その幼子は
ノースリーブの肩越しから世界を見ていて
けれどそのまなざしのゆくえを
一番近い人は知らないままなのだろう

娘と信号待ちをしながらふと
ショーウィンドウに目をやると
私より背の高い娘が映っていた

いつのまに
こんなにたくさんの時間が経ったのだろう
あなたのまなざしのゆくえを知らないまま

店先にはバーゲンセールの文字
ふあふあのタオルが飾られていて
つい欲しくなる
もう赤ちゃんはいないのに
(いつのまに)
縁をぐるりと囲むように施された
愛らしいブランケットステッチ
ほつれないように、と
願う糸飾り
そのひと編みひと編みをかがった人の手は
今どのあたりを歩いているのだろう



自由詩 青信号に変わるまでの時間に Copyright そらの珊瑚 2017-07-28 12:31:06縦
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