虹を探す
吉岡ペペロ
外から犬のうなり声があんまり長く聞こえたもんだから、なんだろうかと思いをめぐらせた。で、それはエアコンが自動で動き出した音だと気づいた。
野犬などいない町だから、犬ではないとは思ったが。ここはオフィスだ。
たくさんいる部下の大半にイラついていた。
それは器のちいささから来ているのだが、いずれにせようまくいかないのなら、まだこんなふうに足掻いているほうが良くはないか。
計画性のない部下を、恒例の季節行事のような感じで指導していた。こいつ昨日より痩せたなと思いながら、箴言みたいな言葉を吐いていた。なにも世界は変わらないのに。
みんな金持ちで仕事ができてまっすぐな気持ちで楽しく生きていけたらいいのに。じぶんはどうだろう。犬がうなる声が止んだ。室温が目標に達したのだ。オンとオフ。 なにも世界は変わらない。
コーヒーをいれにサーバーのところまで行った。こんなもの飲んでどうするわけでもない。カフェインが欲しいだけ。
振り返りオフィスで働く部下たちの肩や背中を見回しながら席に戻った。イスの近くの床に虹がでていた。
夕方のまだ明るい陽がなにかに当たって出来たのだろう。あたりを探すと、社長賞でもらったクリスタルがあやしかった。クリスタルに触ると虹が消えた。それからまたクリスタルを触って虹を床に戻した。
世界は変わらない。ちっぽけな器に入るような世界なんて変わるわけもない。
さっき指導した部下がめのまえに立っていた。犬のうなり声がまた始まった。きょうはなんでエアコンが犬の声に聞こえるのだろう。
部下がなにか話そうとしている。犬のうなり声のこと、こいつに聞いてみようか。意外になにか教えてくれるかも知れない。
あしもとの虹を探しながらため息をついた。このため息を部下が気にしないように、こちら側から口を開いた。
犬のうなり声が部下の顔や肩や胸にかさなってぐるぐる回った。コーヒーを口にふくんで喋るのをやめた。
目に見えていた音がやんだ。疲れていたわけではない。いつもとおんなじイライラとした日々。
さっきの虹の色、その色の順を思った。
あしもとに虹はまだあるのか。虹を確かめずに目を閉じた。なにか言いかけてこらえるようなうごきを唇にさせていた。
どうでもいいような空気がながれて目をあけた。虹を探そうとしてやめ、部下の顔に視線をあてた。胸を、肩を見やった。そして犬のうなり声のわけを部下が話し始めるのを待った。
自由詩
虹を探す
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吉岡ペペロ
2017-07-28 00:31:00