曲線の声色
黒崎 水華

夏の夜の終わりに
妖精の輪に足を踏み入れた

短針を飲み込んで
長針を吐き出した
秒針の枯渇が凍結してゆく
三針の傷痕が開いてゆく

真白いシーツの奥で蠢く
化生に成りつつある獣

冷蔵庫の低い唸り声
魚眼レンズの海鳴り
白砂が靴の中で歌い乍ら
浜木綿の色が滲む

歌集を啄んだ指先
爪先は背表紙を蹴飛ばした

秋の早朝
静かに枯れ落ちる言葉
血生臭いのは疼く所為
白い魚の腹が月に成る

カサカサと剥がれる瘡蓋
エタノールの馨に含まれる
包帯の海は春先に咲く冬の芽
柔らかなキャベツの芯

赤い尾鰭が影を引き連れ翻る
睡りは厳かに
白昼夢に蕩けてゐる


自由詩 曲線の声色 Copyright 黒崎 水華 2017-07-25 00:16:36
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