せせらぎ
Lucy
寝床に横たわると
せせらぎが聞こえてくる
母の家は川に近いが
夜は窓も閉めているし
国道を挟んで
川の流れる音など聞こえるはずがない
たぶん一晩中自動で回る
換気扇の音だろうと
弟はいう
母は隣の部屋で
案外深く眠っている
それで私は
薄闇に目を閉じ
窓辺に訪ねくる川の声に
耳を凝らす
明日になれば
母と食べるはずの朝食を
思い浮かべる
うっかりしていたら
この夏の記憶もすぐに
不確かな思い込みとなり
果てもなく拡がる薄闇の奥へと
霧散してしまうのだろう
30度超えの猛暑が10日以上も続いたが
母はまだ私が娘だということを
ちゃんと知っていて
冷蔵庫のアイスを
食べろとすすめてくれる
私はいつまで
母をおぼえていられるだろうか