失踪するための
北井戸 あや子

病院帰りにコンビニへ入り
いつものように雑誌コーナーへ向かい
いつものように
立ち読みしている学生に
カロリーをチェックしている女に
記号化した挨拶を繰り返す店員に
社会を回している奴らすべてに向け
殺してくれと念を送る
読み終えた少年誌を戻して煙草を買う
入り口に血は落ちていない
駐車場に私の死体は
ゴミのように転がってすらいない
その事実を踏み締めていや踏みにじり
情けなさを隠すように鞄を掛けなおす
ぐちゃぐちゃで重いこの頭を
颯爽と吹き飛ばしたいのに
飛び込むどころか駆け込んだ電車に揺られて
気が付けば今日も無傷で家に帰っている
無言で晩飯を食うしかない
何故なら笑って話す出来事がない
一家団欒が欲しかったような気もするが
それを嘆いて夜中に刃物で切りつける手首もない
中一で死んどけばよかったと思い続けて
未だに生きている
クソみたいに毎日を消費して
懺悔したくても払う金がない
毎晩襲いくるくせに
憂鬱は私を潰してはくれず
自分自身にすら見放されたかと
廃墟と化している精神で夜を過ごす
自己憎悪の泥濘はずるずると手招きをしている
抵抗する理由はない
私は私を殺してやりたいから
昔よりこの泥濘は
随分なめらかになったなと
頭の先まで埋もれふと見上げた先で
落胆する私を尻目に
また朝があった
細く眦を抉る陽とそこに想起される色濃い過去へ
おそらく私は、別れなど告げはしないだろう
のしかかる記憶の質量、怒り、そして朝
すべてを背に負って、狭い坂道を行くんだ
ぽつねんとひとりで
サイズの合っていないスニーカーの隙間や
そこから伸びる影へ
ありったけの言葉を殴り書きながら


自由詩 失踪するための Copyright 北井戸 あや子 2017-07-19 00:55:15
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