沈黙の海
ヒヤシンス


 眼鏡の奥の青い瞳が血で染まる時、埠頭から飛び立つ鳥よ、憎しみに湧け。
 人間の弱さを自分の弱さと重ね合わせ、逃避する心よ、悲しみに暮れろ。
 存在を日々消費してゆく者が夕景に若いエキスを吸い込もうとしたところで、
 彷徨い、漂い、ただ煩悶するだけなのだ。

 時は時間稼ぎをする事もなく、人々の間をそよ風のように過ぎ去ってゆく。
 悲しみは一時的に風と共に過ぎ去っても、憎しみは増すばかりだ。
 人間の弱さを引き合いに出して、自分を守るのはよしてくれないか。
 さあ、そろそろ出掛ける時間だぜ。

 自分の犯した罪の代償を払えよ。
 笑って見送ってやるぜ。
 さあ、行けよ!

 埠頭に立ち尽くす鳥よ、奴の屍を啄め。
 血で染まった青い瞳がお前の最後を見届けて、深い沈黙の海へと帰ってゆく。
 時は徒然に小さな波を奮い立たせるばかりだ。


自由詩 沈黙の海 Copyright ヒヤシンス 2017-07-15 05:21:47
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