ひとつ のぞみ
木立 悟







何かのかたちが傍らを落ち
遅い影がそれにつづく
眠りのなかの冷たい放出
幾度も幾度も繰り返す非


直ぐの水と曲がり水
ひとつのかたちを拒みながら
蒸した原と土の香の渦
海への坂を下りてゆく


底を得たら底のように
無いものを在るようにしたりせずに
どんなにどんなに足掻いても
左耳は右耳になれないのだから


鉄の筒より 木の筒がいい
木の筒よりも紙の筒がいい
でも誰ひとり ほんとうを言わない
布の筒は すぐに汚れる


夢の十五と現の二十
ひとつの指の上の千年
沼地には羽
暮れ色の羽


錆びた思い出を
素手で口で渡しながら
やがて崩れ落ちるものが
自身であると知りながら


凍る川の下を
瀧の卵が流れ
燃え上がる植物図鑑と共に
心の無い詩人も燃えてゆく


それはひとりには すぎた光
呑んでは吐きつづける冷えた炎
それでも呑みつづけ吐きつづけるのなら
そのものは霧と消えるのだろうか


硬くやわらかな朝に坂をころがり
助けを求める腕をもぎ取られ
海に落ち 足で泳ぎ 浮かび上がるものの背に
せめて骨の地図が残っているように


秋のままの中洲のそばを
無数の水の季節は過ぎて
影に脅えていた子らも
影の手を取り歩き出す 
























自由詩 ひとつ のぞみ Copyright 木立 悟 2017-07-12 15:44:36
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