邪心
ヒヤシンス


 記憶の彼方に浮かぶ一艘の客船は時を巡る。
 大海原は凪いでいる。
 トランス状態に入る前の静けさに音楽は語る。
 安らぎはいまだ訪れはしない。

 多少の情緒不安定は正常だ。
 海は波を伴って人生の経路を捧げる。
 出航前の生贄は私だ。
 奇妙なぐらい心は沈黙している。

 差し出すがいい、君の心臓を。
 赤黒く燃えている君の鼓動を。
 サンバのリズムに踊る心臓を君は持っているか?

 デキャンタに注ぐ私の血潮に火を点そう。
 ナイフで心臓を抉り出し、頭の皮を削ぎ落とせば発狂した過去が笑うだろう。
 それはもはや記憶ではなく現実なのだ。
 


自由詩 邪心 Copyright ヒヤシンス 2017-07-08 03:06:35
notebook Home 戻る