海辺のカソカ
ただのみきや

*小樽カントリークラブ


空は灰 まだらに吠え
泥めく海 見渡すかぎりの獣
分厚い風を羽織り
霧雨でぬれた頬
それでもゴルフ
おそらく
たぶん
見るからに
上手くはない老紳士たち
月曜日の朝
カモメも斜めに回り込むような
この場所以外
誰も歩いていない
バス停に老婆がひとり
磯の匂い


*空き家


くさいきれまとい 
かすかな羽音 ふたつみつかすめ
空き家は 古ぼけた 四角い髑髏
日差しに 白く煤け
陥没した屋根
漏れ滴るしずく 黒く汚れ
思考の永久停止 
抜け出て行った記憶と その 残り滓
放置されたまま
腐食し続ける内臓
さらされて 
さらしながら 朽ち
朽ちながら  在って 在り続け
茂る青草 満ち引く時間
あやすような昼の光のゆらめきにも
眼孔暗く
灯る夢はない


*海岸通り


都市は人を吸い上げて肥大する
それすら 『今は昔―― 』
春には鰊 秋には鮭
まほろばは常に歴史の向こう
高度成長期
バブルの戯言
夏には海水浴客でにぎわった
海抜三メートルのメインストリート
倒産した大型店の駐車場も
古い家屋の周りも
雑草だけが塩辛い風に堪えている
それでもここが故郷だから
日常というやすらかな眩暈に
古い駅舎を出て
急な坂道を黙々と登る
男も 女も 学生も 老人も
夕間暮れ
磯の匂いなんてここには
ありすぎてないのだ


*高熱の蝶


雑念の園で
蝶は断たれた
惨たらしい花時計
時は死を
次々に死を重ね纏い
大腿骨は時針となる
葉は羽
葉は刃
葉は波
地を巡る己の影を今抱きしめて
蝶は断たれた
燐寸一本分の生
言葉は乾く
原色のイマージュのまま




           《海辺のカソカ:2017年7月1日》









自由詩 海辺のカソカ Copyright ただのみきや 2017-07-01 20:53:54
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