交差点
伊藤 大樹

隣人は透明な猫として現れる

薄明の線路の上を
囁きながら 死者を乗せて
一本の列車が発車する

台風がそこまで迫っていても
わたしたちの窓は 安全だ
有刺鉄線に蔽われた東京の空を
思いがけなく白い雲が縦断する

青信号の歩道をわたった六月の鳥が
河川敷の花壇で卵を抱く季節
煙草の火もくすぶりがちになる午后
通りをうるおしていく風がまなざす

死者は
わたしたちのすきまを
すれちがっている他者であったりする

 「死者も渇き
 「死者も汗かいている

詩は言葉たちの行きかう交差点である
若者のつややかな頰に
毅然とした女の秋波 ひらめけば
銀河のはじまり 歴史の終焉
瞬間 宇宙大の未生をはらんでいる


自由詩 交差点 Copyright 伊藤 大樹 2017-06-25 21:31:24
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