犯す
印あかり
ぬっとり湿った夜の膜を
そっとふたつの指で広げれば
胸を裂くような光のしたを
あたたかさ、なさけなさの影が歩いていた
カーブミラーの歪みのなかの
少しだけ正しい領域を
裸足で歩くわたしがいた
夏の神様の青い息が
夜風にのばされて街を包み
木造アパートでひとり
微旨のあぶらみを味わっていた詩人の
鼻を覆ってしまって
彼は明朝体の歯ごたえだけを
今日の慰みにするのだろうか
ああ
雨
本当は知っていた
あの部屋を出た瞬間から
わたしだけがその匂いに気づいていた
夜だけじゃない雲の膜
水だけじゃない不純の匂い
泣きそうな心で階段を降りた
わたしを見ていた、本当の歪みを
(正すことなどできない)
(だからこそわたしはあの部屋を出た)
右手にぶら下げたバットが
アスファルトを引っ掻いている
ポケットのなかで、ずっと
部屋の鍵が鳴り続けている
踵から流れだす正義で
往く道に残した予告とためらい