風のオマージュ その7
みつべえ

 ☆山中散生「JOUER AU FEU」の場合




 
 いま私の手もとに「JOUER AU FEU」という一冊の詩集がある。このタイトル、外国語なので、もちろん読めない(笑)。が、検索したらどうやら「火遊び」、あるいは作品にある同題の「火串戯」のことらしい。って、「火串戯」じゃ、ますます意味わからん。なんか痛そうだし。
 著者は「TIROUX YAMANAKA」。「山中」はわかるけど、「TIROUX」が「散生(ちりう)」のことなのだろうか。奥書をみると昭和10年(1935年)発行。すげえ古い。でもこれは初版本ではなく、昭和45年の復刻版。それでもかなり古い。袋とじの頁をペーパーナイフで切りひらきながら読むタイプの本だったようで頁の端がギザギザの不揃い。現在は煤けてしまったが表紙の色はワインレッドで、おそらく当時としては相当オシャレな装幀だったにちがいない。で、内表紙はピンク色。そして、いきなり日本語で「山中散生詩集」とくる。本文もみんな日本語。なんでえ、そんなら最初から全部日本語にしろい! と言ってみたくなる私はやはり庶民派でした(笑)。
 でもまあ、そのあと出てくる「山彦海彦」とか「久米仙」とかいう大時代な言葉にちょっと安堵。時代に先駆けたシュルレアリスムの紹介者も、その時代の言葉の制約からは逃れられなかった、ということですかね。
 では、その中から作品「火串戯」をば。




 あなたの火の指に隠れる烈しい悪意に

 眠りの光背を背負ふわたしは斃れる

   消えたランプよ ド レ
   ミ ファ ソ ひとは
   ペダルを踏みはづし・・・

 さうして今もなほ、出口に逡巡ふあなたの影の輪廻し




 「光背」は仏像が背負っているアレ。たぶん重い。「逡巡ふ」は「ためらう」か。全体にナマのシュルレアリスムというよりは、その日本的献立のモダニズムの匂いがつよい印象。「火の指」と「出口に逡巡ふあなたの影の輪廻し」で想像を逞しくさせられる。つまり「疲れていて、今日は眠りたいのに、ああん、いじわる、そんなところに指つっこんで」みたいな(笑)。そうであるなら、タイトルの「火串戯」もなんかわかるような気がする。瀟洒なレトリックにオブラートされて、ちっともいやらしく感じない。これがモダニズムのテクニックなのかと妙に感心したものです。
 と解釈したのが私だけだったら、とんでもなく恥ずかしいぞ(爆)
 



●山中散生(1905~1977)

愛知県生まれ。フランス文学を学び、ポール・エリュアールやアンドレ・ブルトンらの著作を翻訳、日本に紹介した。 


                


散文(批評随筆小説等) 風のオマージュ その7 Copyright みつべえ 2003-11-15 20:54:41
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