ある錬金術師の告白
ただのみきや

――黄金が憎いのだ
魅入られ 争い奪い合う 不動の価値が
金の卵を生む鶏は腹を裂かれて殺された
その輝きが飼い主を愚かにした
鳥でも蛇でもおよそ卵には天性の美のフォルムがある
それは新たな命を未来へ送り出す小舟 古から
黄金の輝きは 美に 命(他者の)に 勝るもの


わたしは黄金を憎む
人間だけが容易く欺かれるその輝きを
それが石や砂のようなら誰が尊ぶだろう
純化された黄金は透き通ったガラスのよう
澄んでいるのか映しているのか戸惑うほど だが
もし希少でないのなら 誰が奪い 誰が殺してまで
血の通わない鉱物のため 身を粉にしてまで誰が


わたしは黄金を憎む
今日もそれは富む者と共にある
貧民が朝早くから夜遅くまで働いても
その一かけらにも達しはしない
世界中の通貨や株価が激変しても
黄金は緩やかな波のように寄せては引くばかり
普遍の輝き 地位と力と富 勝者の象徴


わたしは黄金を生みはしない
価値なきものに一瞬息を吹き込んで
あたかも 黄金と見紛うような
――夢幻の輝き
朝には その手の中 淡く解け去って
持てる者には手酷い欺きを
持てない者にはひと時の夢を


わたしは黄金が憎い
故に敵対し挑み続けている
それがわたしの錬金術 
日の当たらぬ部屋に籠って明けも暮れても 
――すべてはガスに 残されるのは
黒い焦げ痕ばかり 伝える口を持たない
精霊たちのダイイング・メッセージ




            《ある錬金術師の告白:2017年5月4日》









自由詩 ある錬金術師の告白 Copyright ただのみきや 2017-05-06 15:33:48
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