馬鹿ってばかりの国
ホロウ・シカエルボク



馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
寒いものを暑いと言い
増えたものを減ったという

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
声も出せない小娘に
肥えた豚が金を注ぐ

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
誰かの言葉に総出で群がり
良いだの駄目だの唾飛ばす

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
書いてあることしか読めず
映っているものしか見えない

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
表紙と同じ服を買い漁り
カタログと同じ髪型にする

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
自称が自称を嘲笑し
結局十把ひとからげ

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
イキってみたって小心だから
小声でボソッとこぼすだけ

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国

「この世に生まれたわけを知っていますか」
「言葉を忘れないわけを知っていますか」
「終わったと言われながらずっと続いているものをいくつ言えますか」
「深い切傷から溢れ出る拭っても拭っても途切れない血の赤さを知っていますか」
「お互いに望みながら相容れなかった人を見送りながら考えたことを覚えていますか」
疑問符は幾つだって幾つだって溢れてくるのに
知らないまま死のうとするのは何故なのか
たかだか数十年の人生が
本当に真実だと信じているのか

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
たったひとつのことにこだわり過ぎて
他のすべてのことを取り違える

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
ただ言い続けたものの勝ち
ただ叫び続けたものの勝ち

「豪勢な見てくれに騙されて、中身のないやつが持ち上げられる、真っ正直とシニカルが同じ定義で遊んでる、アウトサイドはインサイドに依存しなければ存在価値もない、プールサイドの青春は数年後には身を切るような痛みになる、そのうちきっとしなやかに泳いでいたことさえ忘れてしまうだろう、子供のころ、あんなにもがいて、あんなに水を飲んで、あんなに必死になって覚えたクロールなのに!先生、スタートを教えて、先生、あの奇妙な音色のホイッスルを頬っぺたを膨らませて懸命に吹いて、もう二度と逃げ込むことの出来ない思い出の保健室で置きざられた少年たちが共食いを始める、嘘だって判ってた、こんな都合のいい場所なんて本当はないんだって、馬子にも衣裳で臨んだ成人式のあとで身を隠したのは、生きやすいというだけの形骸化した通電しない基盤の上、弾を抜かれたマシンガンを所持することだけが許される、もの言わぬ銃口が僕らのアイデンティティー、終電を逃した線路でトリガーが跳ねる、下手糞な口笛のように、フレットを抑えきれないアコースティック・ギターのストロークのように、ダイヤモンド・ダストのようだった明日は真っ黒い雨になり、見上げる目に張り付いて視界が塞がれる、でも心配することなんてないんだよ、この世界はきっとそんな有様の方が歩きやすいように出来ているんだ、武器があるなら弾を込めればいい、それは探せばどこかにきっと落ちているはずだから」

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
優しい言葉ばかりが
純粋だって称される

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
先に行ったものの言葉は
判らないから投げられる

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
お前のカレンダーの白紙
俺のワードデータの白痴

馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国
馬鹿ってばかりの国




自由詩 馬鹿ってばかりの国 Copyright ホロウ・シカエルボク 2017-05-03 01:29:51
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