燃える、黄金の、盲いたる、馬!
zitensha

人間の涙は邪悪そのもの
馬の涙は純粋そのもの
おお!人類よ、願わくば馬のように涙を流せ

ももももももも、燃える黄金の馬よ!
燃える、黄金の、盲いたる、馬よ!

太陽に向かって一直線に疾走し垂らされた欲望、の!漆黒、の!無限大、の!飢えたる舌が世界を壊滅的に愛撫し
一人の蝙蝠傘を持った哀しい男の脳髄を通過し
走る、走る、走る、黄金の盲いたる馬!

数千の邪悪な天使と交わり
数万の太陽を逆照射し
熟れた果実の核を発見し
走れ馬よ!
お前の白骨を空葬してやる

おお!
黄金の馬がたてがみを揺らし疾走し、後ろ足で世界を蹴り飛ばし
最高速度で惑星から地球に向かって垂直に落下し
それを見た眼のない詩人が灼熱のカルカッタで無限に向かって手を振った

都市の”窓”から盲いたる顔を出して嘶く!
その嘶きは一閃として輝き、暗い、感覚の王国を、ザラついて
熱性の美学で我々の生命を破壊せんとする

馬が
馬が
燃える黄金の盲いたる馬が
暗黒の都市の暗渠からかろうじて這い出て
人類の無意識の泥濘を搔き乱し
馬の眼の中に刻まれる太陽の黒点!
嘶け!

星の列柱がパチンコ台の中で死に絶え
星の列柱が真夏の破壊的な魔力に虐殺され
我々人類はもう眼を開くことができない

おお!どうしよう!

馬だけが、盲いたる黄金の馬、だけが
世界をその手中におさめることができる
「四月は残酷そのもの」
真冬のペテルブルグから最も深いマリアナ海溝の海底まで
マラルメの暗喩から中也の叙情まで
ヒッチコックのサスペンスからゴダールの引用まで
殺害、虐殺、瞬殺する馬よ!
もう言葉は不要だ、眼も耳も不要だ、お前たちは絶対に世界に触れることができない
緑の思想
我が闘争
全ては無に帰して、一匹の馬の実存の前に脆く崩れる、崩れよ!
馬が言葉の淵源に触れるそそり立つ東海岸の白いアメリカに触れるソマリア沖の海賊だけが知る顔のない男の謎に触れる女の秘部を曲がりくねった欲望が触れる、天使の真っ赤な血がまだ乾かぬうちに!
ディオニソス的な、ディオニソス的な…馬!生き馬!黄金の馬!盲いたる馬!!!!!

沈黙の大木があり、静かな水があり、骨のない犬があり、唇が薔薇のように咲いて裂けた四月の宵闇があり、揺蕩うクラゲのように大海原に揺られ揺うられ、揺られ揺うられ、職のない男が夢見るアフリカの大草原、ジーナ・ロロブリジーダが嫌うインポテンツ、ヒーッヒッヒ。ヒーッヒッヒ。

エルヴィス・プレスリーのあま〜い「ラブミーテンダー」をターンテーブルにかけて
25時、を目覚める
病める魂の時間
詩魂が浮かび上がり
静かに目を閉じよ
そして右手には拳銃を!左手には花束を!

人間の涙は邪悪そのもの
馬の涙は純粋そのもの
おお!人類よ、願わくば馬のように涙を流せ

「四月は残酷そのもの」
もう逃げられない
イメージは馬
一匹の馬
おお!走れ、走れ、走れ、馬よ

殺気立った太陽に一直線に疾駆する彗星がかすめる、擦過音
230万光年の彼方からやってきた一筋の大いなる光

「光あれ!」
眼を閉じる、その刹那だけが真実!

破壊せよ!
破壊せよ!
破壊せよ!

馬、疾走する、一本の矢、の、ような、黄金の、盲いたる、馬!
その、馬、が、飜った涙のように美しい朝に(翻った涙のように美しい朝に)
発狂した
そして人類は口を閉ざした
(そして人類は口を閉ざした)
あまりにも語ることが多かったから
(あまりにも語ることが多かったから)


自由詩 燃える、黄金の、盲いたる、馬! Copyright zitensha 2017-04-17 18:03:41
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