鷲田

遠くから足跡が聞こえる
闇の中で独りでいる時、
その足跡の音は社会の目線に聞こえる

街の空気は有料だ
生きる為には対価を払わなければならない
自然に生きる態度は身勝手な若気の草木に似ている
明るさの中で健やかに育つ無邪気な水

女が一人通り過ぎた
カツカツカツカツと
ハイヒールの音が静寂の夜に響く
微かに身構える時、
緊張に張り巡らされた感覚が自らの存在の在り方を問いている

会話は無い
声は無い
窓を閉める音と、遠くに走る車の音が聞こえる
午前0時の暗闇はただそこにある

夜は時刻を知らない
その癖に暗くなる
自然は天然の鈍さを備えている
夜はたぶん幸せなのだろう


月は出ていない
太陽
太陽は宇宙に疾走している

光と言えば街頭の光だけだ

仄かに足元を照らす道路の上に
タバコの吸い殻が落ちている
恐怖心は何故か芽生えない
眠りに就いた真夜中の景色
深海の底辺で泳ぐ魚達の世界の冒険に通じている

街と空と海が黒く呼応する時、
静けさは全てを支配する
そこに人間の活動する機会は無い
抹殺の狂気だけが支配する
また一人人間が狂った

私は思う
私は誰なのだと
そして同時に思う
私はここで私なのだと

明日は直ぐそばにある
今日は眠りに就こう
明日は精一杯寝てやる
朝に太陽の陽が既に登り、
布団には陽射し差し込み時刻まで

やがて家に着く
思考は鳴りやむ
ただ何も無い家庭の暖かさ
私は夜になれた

鈍感さが私の体を包み、
幸せを感じた
幸せと言うやつは何時も鈍感だ
繊細さは思考と同居する
感覚に翻弄されたくなければ
ただ直観と遊ぶしかない

夜が更ける
夜が更ける
おやすみなさい
おやすみなさい


自由詩Copyright 鷲田 2017-04-16 00:51:42
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