夜桜
鷲田

4月初旬。
朝早く家を出た私は今日の天気を知る由も無く会社へと出かける。
今日が晴れの日だったと知るのはもう陽が暮れた9時前後の月の形であった。
月は丸々と綺麗な楕円をして空に浮いており、
「存在」するとか「主張」するといった傲慢な人間の心情や信条とはかけ離れた姿であった。

夜空の雲は月を隠さず、
月光に照らされ、
ほのかに淡くぼんやりとしていて、
それでいて月は輪郭を保ち、
凛と佇んでいた。

春のある日の日常的な夜には小さな喜びがあった。
帰りに立ち寄るコンビニエンスストアの前の公園の夜桜がそれであった。
桜はライトアップされ、
蛍光灯の光に照らされ、
桜色と白色の中間のような彩りをしていた。

桜の花を月光が照らしていたなら、
より趣があったことであろうが、
生活がひしめく都会の雑踏で
そのような景色を期待することは、
寧ろ都会人の過剰さであるような感覚に襲われ反省した。

都会は一つの自然なのだろうか。
ビルや住居の形は生い茂る山林や遠くへと連なる山脈に成り得るだろうか。

コンビニエンスストアで
ウィスキーと
氷と
ノンアルコールビールを買ってとぼとぼと家路へと歩むアスファルトの上に、
あの公園の地面に舞い降りる筈の
一片の桜の花がヒラリと無言で横たわっていた。


自由詩 夜桜 Copyright 鷲田 2017-04-10 22:57:11
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