ムーミンについて(その三)
tonpekep

ムーミン谷の舞台になっているのは、森と湖の国フィンランドである。首都はヘルシンキ。国土の7割が森で占められ、約18万個の湖がある。国土面積は日本の北海道と本州、四国を合わせたくらいで、遙か北に位置する場所にあるも四季がある。

フィンランドは北緯60°から70°の間にすっぽりと入っている。日本の緯度がだいたい北緯20°から45°の間にある。度数でいってもその位置がいったいどの辺りにあるのかよく分からないので、強引ではあるが、かりにフィンランドを日本の近辺にその緯度のままひっぱってきたなら、その位置は北海道の上にある樺太(サハリン)を軽く越え、更には千島列島の線上にあるカムチャッカ半島をも越える。エスキモーが住んでいるアラスカと同じ緯度にあるのだから、ムーミン谷に住む人々が冬眠するのもなるほど仕方のないことかもしれない。

長い冬の空にはときどきオーロラが架かり、太陽が昇らない日もある。逆に夏になると太陽が沈まない。自然は豊かである。たくさんの珍しい植物があり、たくさんの種類の昆虫が住んでいる。ムーミン谷に偉大な植物学者のヘムレン教授が暮らしているのも納得できる。

ムーミン谷はそういうフィンランドの風土の中に設定されたひとつの理想郷といったところか。谷は海に面してあり、東に「おさびし山」が高く聳えている。谷の真ん中を川が流れていて、北に大きな森が広がっている。西側の海を望むとニョロニョロの島を遠くに見ることができ、村を出るにはこの海を渡るか、峠を越えるかしないと行けない。ただ、谷の住人たちはほとんど谷から外に出ることはなく、農作物や海産物を収穫しながら自給自足しているらしい。唯一例外として、スナフキンが冬になるとムーミン谷を出て、どこかへ旅に出掛ける。

ムーミン谷には通貨があるが、それを使って物を買うという場面は見かけない。各家庭は十分な生活力があり、むしろ過剰にあるのではないかと思えるほどだ。ムーミン家ではよくパーティーを開いてはお客様をもてなしているし、尋ねて来る人には惜しげもなく食べ物を与え、そして泊めてあげる。恐ろしいくらいの寛容さだ。ミイーやフローレン、スニフなんかは見る限り、ほとんどムーミン家で暮らしているようなものだ。

全ての住人にいえるのだが、ムーミン谷には所有権といったものがほとんどないように思える。住まいも全て手作りで、役場に建築許可証の申請をすれば自由に建てることができるし、公共のものは何を利用するにもただみたいなものだ。おそらく税金などというものを、国に対して納税しなければならない国民の義務みたいなものは、存在していないだろうと思える。

私がアニメを見ている限りでは、高価な宝石などを平気でプレゼントしたりしている。俗物的なものの考え方をしているのはスニフ(カンガルーみたいなキャラクター)くらいで、そのスニフでさえ、要は美味しい物がいっぱい食べられるからという事情しかなく、私達から見ればものすごく徳があるキャラクターだ。

ムーミン谷はおそらく我々人類の願望、究極の果てにある理想郷といったところか。全ての住人が衣食住に満たされ、貧困の差がまるでなく、それによって人々は争う理由を持たない。事件などといっても血なまぐさい事件などムーミン谷の歴史には皆無で、ムーミンたち、子供達が起こすいたずらがムーミン谷の大事件なのだ。大人達が争うことはまずないのだ。平和というものが空気の中に当たり前のようにとけ込んでいて、そこに殺気立つものが震えて伝わってくるようなことは絶対にあり得ないのだ。

2004年/冬


散文(批評随筆小説等) ムーミンについて(その三) Copyright tonpekep 2005-03-08 10:33:09
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