REINCARNATION
本木はじめ

塔というひとつの崩れるあこがれや空へと伸ばした腕の傷痕


傷つけて傷つけられて庭先で裸足のままで梅の香を嗅ぐ


濁流に映りしきみの微笑みか重たき日々の波のきらめき


階段の日陰にぼくは座り込み陽だまりみたいなきみを見ている


もう何も間に合わないね何もかもかさぶたみたいに剥がされてゆく


三月の廃車置き場に原色のチューリップ一輪わすれたぼくら


狭い檻に閉じ込められてぬるぬると蛇へと変わりしきみと死す春


ロウソクを白い炎と仮定して新しきものひとつ消えゆく


雷鳴やまばたくように点滅す黒はおもいで白はげんざい


かたちから逃れられない者たちの背後にたたずむ無言の道化


伝えようとすればするほどこぼれゆく水の音だけ響く校廊


終着駅此処から咲きはじめるはずの真っ赤な花の種のはだいろ


眠れない夜に扉を開けつづけ巨大な蚕にあいさつをした


意識とか無意識だとか沈黙よおまえはいつまで無言のままか


欠けてゆく世界の一部としての春さくらのはなびらひろいあつめて


明日から覗かれている毎日よ思い出みたいに美しく去れ






短歌 REINCARNATION Copyright 本木はじめ 2005-03-08 05:01:46
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