逃すまじ
坂本瞳子

頭を空に向けて六十二度くらい傾けたまま
動けなくなってしまった

顎を前方に突き出したまま
後頭部が後ろに傾いたように
六十二度が保たれている

右足をもう少し前に出すと
バランスが良くなるだろうか
左腕もう少し上げてみようか

きっともうすぐ後頭部が
地面と平行になる
後ろの人たちに
自らのツムジを見せつけたいかのように

このまま足元から宙に浮いていくんじゃないか
そんな気さえしそうだけれど

眉間に深い皺が入りそうで
だからといって真っ直ぐに向き直る必要性も感じていない
歩けやしない
歩きたくもない
このままでいい
このままがいい
否よくない

喉が鳴りそうだ
乾いていないのに
空腹でもないのに
物凄い音がどこからか響くんじゃないだろうか

痺れてくるんじゃないか
背筋を一直線に下の方から痺れが走り出すんじゃないか
下の方を向きそうなツムジの辺りから放電でもしやしないだろうか

倒れてしまった方が楽だろうに

背中を起こすのか
起きるのか
前を見ろ

目の前に見えるそれが
真実だから

歩を進める
今だ


自由詩 逃すまじ Copyright 坂本瞳子 2017-03-08 01:24:58
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