雪の様に
倉科 然

いつか記憶は彼方まで拡散して
散り散りになっていく
今日も主人の顔を見に出かけると老女は言うが
もう、会いに行ける、その相手はいないのだ
彼女が生きている糧はもういない
もう会えない相手との記憶は拡散する事なく
彼女自身の核になり
やがて消滅するその身から離れようとはしない
私は少し息を溜めてから
今日は天気が良くないのでやめておきましょうと言う
彼女は少し困った顔をするがやがて笑顔で
そうですねと自分の部屋に戻る
明日にはまた出かけようとする彼女に
明日にはまた嘘をつく予定でいる私に
神様がいるならどうか一筋の祈りの光を


自由詩 雪の様に Copyright 倉科 然 2017-03-02 12:59:46
notebook Home