少年
呼無木


      夜半から雨が降ると
     坂は魂の匂いで蒸せ返る

     幾百匹のカエルの白い腹
     幾百匹の紫にふやけたミミズの肉片
     幾百匹の忘れられた肢体

     立ち昇る新鮮な死の匂い
     湿っぽい肉の匂い
     胸いっぱいに吸い込みながら 朝
     わたしは坂を下る
     この古い坂はわたしの通学路なのだ

     幾百匹のカエルの白い腹
     幾百匹の紫にふやけたミミズの肉片
     幾百匹の忘れられた肢体
     彼らの抜け殻を踏まぬように
     それがわたしの日課である
     けれど 時折通り過ぎる車が
     彼らの破片をぷちぷちぷち
     ぷちぷちっ

     幾百匹のカエルの白い腹
     幾百匹の紫にふやけたミミズの肉片
     幾百匹の忘れられた肢体

     心なしかすっぱい匂いもするのは
     そのせいなのだろうか

     ひょっとしたら彼らと同じように
     一昨年死んだじいちゃんも
     帰ってこない犬のマリも
     この坂のどこかで
     雨水に打ち揚げられているような
     気がして



自由詩 少年 Copyright 呼無木 2017-03-01 07:54:04
notebook Home 戻る