not sepia
青の群れ

デパートの屋上で子供の頃の願望が簡単に拾えてしまう
少し汚れたパンダにまたがって、ためらいなくコインを入れた
童心に帰るほど、帰らなきゃいけない距離ができたこと

まだ寒い春の昼間に
花粉症で目が潤んだり、鼻をすんすんと鳴らす
誰もいないから、けらけらと笑いながら
パンダにまたがる自分を客観視している

四歳くらいの私が幼稚園の先生をおばさんだと思っていたね
はい、はい、うんうん、そうだねえ
おばさんをおばさんと呼ばないために
聞き流す技術を身につけるために
子供の頃の不満や理不尽は大人になるために必要だったんだよ

もうたぶんとっくの昔に愚かさを捨てて
私達には振り返る気持ちだけがある

チョコサンデーの魅力がわからなくなった
それよりもピエールマルコリーニのチョコレートが食べたい

私達の青春にセピアのレイヤーを重ねないでよ
ドレミファソラシドで構成されたメロディがらんらんと流れてる
免許の要らない車ですら、こう動くだろうと予測を立てる
だれかがここを通るからボタンを押してストップする

ノスタルジックな屋上観覧車の影がコンクリートの上
緩やかに円を描いた

あの頃はよかったと言う人たちが鬱陶しかったはずなのに
いつの間にか昔を振り返るのが上手になったね

デパートから見下ろす景色にネットカフェの看板はなかったころ
そもそも首都高やあの線路はこの景色にはなかったのだ
愚かな子供の頃の私は気にもとめなかった、カーブをなぞるその行為

すでに白黒のパンダは日に焼けていた


自由詩 not sepia Copyright 青の群れ 2017-02-26 18:43:48
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