東京ベイブルース
梅昆布茶
漆黒の海に救済の錨を深く沈めたまま
誰の叫びも届かない街と交信しあう星々を眺めている夜
詠み人知らずの歌が都市の残照を吸い込んで
無数に浮遊している昏い海面に海月となって漂う
東京湾を跨ぐ巨大な吊り橋は光の羽根を拡げて
宇宙への定刻どうりの発着ができない哀しみを
お台場のコンビニ店員の奇妙で素敵な彼女と
無駄口を投げ合って仕事はすすむ
チャイニーズだけれどとっても粋なラーメン店の
おにいさんは福建省の国には帰らなくて
でも13年日本に暮らしているがもうそろそろ転職を考えている
品川のネパール店員とベトナム店員もちょっと馴染みだが
すべてを包摂した夜はただしめやかに歩く淑女のように
夜は遠くちかい
言葉は甘くせつなく憂いを含んで
いつも裏切られ続ける恋人たち
臨海工業地帯のパイプライン
夜釣りの安藤さんが大好きな場所を
邪魔しない様に車を停める
誰からも着信しない真夜中
都市と星がまばたく
もう痛んでしまったセロリを齧る度に
宇宙と星々はちょっとだけ震えて
粗雑で繊細な夜をケンタウロスが疾る