ガーベラ
はるな
むすめが夢中になって影をなぞっている。先月から暮らしはじめたこの家はよく日が入るので、影もまた濃い。ななめに射す光のうえで腹ばいになって、カーテンの影にまぎれているむすめはあたらしい夢みたいだ。
バレンタインデー、駅の花屋にスーツの行列。手のひらに乗るくらいの箱のなかにぎゅっとしきつめられた薔薇やガーベラ。ここの駅は大きいので、行き交うひとも多い。わたしはむすめと手をつないで(おどろくほど温かく湿った手)、往来の端をあるく。むすめのちいさな歩幅にあわせるように歩くと、ここだけ違う川のような気持になる。
遠い、ちかいを繰りかえして一周するこれはなんというのだろう。一日とか、一年とか、いくつもの輪の落ちた道をよろよろ歩いているのとか。飾った花を乾燥した空気にまかせて枯れるままにしている。少しずつ奪われていく色素、かさかさした心やすい音。世界はそのたびに何度でも終わるし、終わり続けている。切っても切ってもあふれるはずだった言葉もだ
んだん水気を失う、(それが思ったよりかなしいことではないとしても)。